MercedesレポートVol.10
~あのメルセデスに乗ってみた~
メルセデス・ベンツ S 300 h ロング
どんなクルマ
一新紀元
メルセデス・ベンツの歴史に刻まれてきたSクラスの軌跡。
フラッグシップとして稀代の要人たちに愛され続けてきたその存在。
そんなメルセデス・ベンツ Sクラスに加わった新しい顔、メルセデス・ベンツ S 300 h。
世を賑わすフォルクスワーゲン社のクリーンディーゼル問題も何するものぞ、泰然とマーケットに放たれたこのクルマ。
これはメルセデス自信の2.2リッター直噴ディーゼルエンジンにハイブリッドを組み合わせた斬新かつ画期的な存在なのである。
このディーゼルエンジンは排出ガス中にAdBlue(尿素水溶液)を噴射してアンモニアに変化、Noxを無害化するというハイテクを装備している。
給油口の横ブルーのもう一つのキャップが目印だ。
ここから尿素を注入、およそ1000kmに1リッターを消費するらしい。
その最新式クリーンディーゼルに27ps/25.5kgmの電気モーターを組み合わせた世界初のディーゼルハイブリッドエンジン。
本国デビュー時より最注目していたこのクルマ、果たしてどんな感想を残してくれるのだろうか?
眺めてみると
大型セダンの約50%、輸入車部門では90%超
いつものごとくスタイリングを見てみよう。
やはり外から見るとこのクルマは大きい。
メルセデスアイデンティティを誇るフロントセクションは、この大型セダンのSクラスであってもどこかスポーティで涼しげな佇まい。
きらびやかなアイラインのようなポジションランプも上品だ。
リアセクションは逆にスマートに仕上げており、小さめのテールランプとバンパーで覆われて見えないマフラーは、一層このクルマのインテリジェンスを高めている。
このフロントセクションの威風堂々さとリアセクションの端正さをマッチさせた高次元のデザインロジック。
さすがはこのクルマ、昨年販売された日本全国の大型セダンの約50%、輸入車に限ってはなんと90%超もの台数を記録したことも十分頷けるものだった。
座ってみると
五感を刺激する快適さ
いつものメルセデスの分厚いドア。
そしていつもの開閉音、いつもの光景...
そこには何ら変わらないメルセデスのルーティンが存在している。
シートに腰掛けてみる。
なんともエクセレントなシートなのだろうか。
いつものメルセデスのシートのまた一段上を行くこの座り心地。
座面長やシートバックの角度の秀逸さのみならず、お尻のすべてをすっぽりと優しく包み込み、寸分の隙間もない...そしてこのふっくらとした感覚。
腰から背中にかけてのフィット感はまるで仮縫いを経たオーダースーツの心地良さ。
そしてコックピットのど真ん中に鎮座する12.3インチの大型液晶画面、よく見るとそれは2枚画面で構成されており、ナビ以外の情報も半面ずつ同時に閲覧可能なスグレモノである。
後席スペースも尋常でない。
なにせドライバーズシートから手を伸ばして後席の荷物に手が届かない広さなのだ。
後席に着座してそのスペースを見ると、足元はもとより頭上も含めてすべてが快適。
快適という言葉が本当にしっくりくるほど「快適」なのだ。
快適とはもちろん、ただ広すぎるだけではなく座った時の膝裏をシートが支える感覚、両腕の置き場、視線の行き先などなど、パッセンジャーが五感を刺激する快適さをこのクルマは備えている。
近年、世界中のメーカーが当たり前のように製造している高級車。
大きなボディの中に高性能エンジンと高度なデバイスを組み込んだ高級車はたくさん見受けられる
乗ってみると
それではいざ乗ってみよう。
のっけからいろいろな期待感を背負ってエンジンを点火してみる。
通常のエンジンの点火は音と振動による耳と身体へのシグナルなのであるが、
このハイブリッドカーは静かなまま電気系統のランプがスイッチオンになるだけなのだ。
そして不安のままアクセルを踏むと、電気モーターのみでスルスルっと走り出す。
そうして数秒を経てディーゼルエンジンが目を覚ますという展開なのである。
よってディーゼルエンジンのアイドリング時のカラカラ音や走り出しのブリブリ音とは一切関係がない。
もはや走行時に限っては音だけではディーゼルを判別できない。
走り出しの初動はすこぶる軽い。
ハンドリングも軽快感に溢れている。
しかし、何よりも驚いたことはその鼻先の軽快さだ。
これは明らかに従来のSクラスのイメージとは180度異なるものである。
ディーゼルエンジンは単体では決して軽くはないのだが、確かに5リッタークラスのV8エンジンの感覚でいると、やはりこの2.2リッター直4のディーゼルエンジンは確実に軽いのだろう。
この軽快さはボディサイズなど、このクルマの大きさに心理的不安のある方々、特に女性ドライバーには確かなアドバンテージに違いない。
なにぶん電気モーターで立ち上がるこの静寂さとハンドルの軽やかさ、そしてその鼻先の軽快さは、もう従来のSクラスとは別物に仕上がっていると言っても過言ではない。
このディーゼルハイブリッドエンジンは首都高で流れをリードする状況でもまったくもって静かである。
走り出すと活発に動き出すこのエンジンは、どんな状況でもディーゼル特有の振動や音は見事に遮断されている。
そしてこの想像以上の加速感、ガソリン車のように回転でトルクを稼ぐ感覚とは異なり、坂道を誰かに押してもらって歩いているようなディーゼル特有の気持ちの良いトルク感なのだ。
流れに乗ると、今度はすぐにメーターの回転計が0を指しエンジンが休みに入り、そこからはあらためて電気モーターにその主役を譲る。
そんな繰り返しが滑らかに続いていく、なるほどこれなら鹿児島~東京を無給油で走るのも納得、合点のいくところだろう。
まずはご賞味あれ
CO2排出量115g/km、JO8モード20.7km/l
Sクラスでありながら環境数値は一般的な小型車と同等。
21世紀の大型セダンの指針となるこのクルマが持つディーゼルハイブリッドエンジンは、
そもそも立ち上がりのトルクに理のあるディーゼルと、これまた初動で一気にトルクを発する電気モーターという同域で力を融合する理にかなった組み合わせ、2.2リッターであれだけのトルク感と加速感が出るのは当たり前なのである。
そしてそれを操るサスペンションも熟成の域に入ったエアサスを装備し、スポーツモードでもノーマルモードでも首都高速のカーブの連続や洒落た石畳の上でも余裕を持っていなしていく。
そして最後に、このクルマには究極の美点である高燃費性能が控えているのだ。
今回も交通の少ない昼間の常磐道ではなんと22km/lを記録。
決してエコ運転に徹したわけでもなく、普通に流れに乗って巡航してこの数値なのだ。
このモチベーションはある意味重要かも知れない。
このSクラス、いわば人生のステータスの証として乗られてきた方も多いはず。
でもその誰もが少々の後ろめたさや罪悪感に苛まれつつ、多くの化石燃料を消費し、過度なCO2を排出してきてしまっているのだ。
今、満を持して登場したこのメルセデス・ベンツ S 300 h。
このクルマはいろいろな意味でこれを解決し、従来のヒエラルキーからの脱却を促してくれるのかもしれない。
もはや、このメルセデス・ベンツ S 300 hはSクラスの単なる廉価グレードではない。
当然Sクラスのエントリーモデルでもない。
この時代、このクルマは紛れもなく本当の富裕層や真のインテリジェンスたちがこぞって乗るべきクルマなのだ。
21世紀もすでに15年を数え、約46億年の地球の最期が近くなっているとも言われる昨今。
その際たる要因となっている地球温暖化の元凶は、文明の発達に伴った我々の怠慢と欺瞞の産物、そう膨大なCO2の排出にほかならない。
北極の氷ももはやあと30年足らずで消滅しようとしている今こそ、文化先進国ニッポンのリプリゼンタティブたちの腕の見せどころなのだ。
彼らが静かにそして毅然とした行動で、この文化先進国のリーダーたる所以を示す必要があるのかもしれない。
まずはご賞味(試乗)あれ...
きっとこのクルマの大きなレーゾンデートル(存在理由)は、それぞれに大きな気づきと確かな勇気を与えてくれるに違いない。
そんな彼らの真剣な眼差しに思いを馳せながら、
今夜も乾杯...