MercedesレポートVol.5
~あのメルセデスに乗ってみた~
メルセデス・ベンツE400カブリオレ
どんなクルマ
乗り手の「育ちの良さ」を感じさせる稀有な存在のカブリオレ
名は体を表す。
名前がその人や物の性質や実体をよく表すことと同様に、
得てしてクルマもまたその乗り手をしっかりと語ってくれるものだ。
人はそれぞれが選んだクルマの理由や経緯がどうであろうとも、
なぜかそのクルマ(名)がその乗り手(体)を表していることが多い。
今回の試乗車はメルセデス・ベンツE400カブリオレ。
国産車には未だ存在しえないプレミアムクラスのキャンバストップカブリオレである。
CLKクラスに代わりEクーペ/カブリオレとしてその座を引き継いだこのクルマはEクラスのエクスクルーシブなパーソナルカーとして存在している。
早速迎えに行ったそのメルセデスE400カブリオレは、写真で見たイメージよりずいぶんと高貴な佇まいを見せていた。
このクルマを愛用する乗り手はどんな人なんだろう?
きっと節目正しい紳士淑女なのだろう。
そんなことを想像していると、もしかしたらこのクルマはガサツな自分の襟もさりげなく正してくれるのかもしれない...
そんな期待とワクワク感で心が満たされていった。
眺めてみると
「優雅」とはこのことを言う
スタイリングを見てみよう。
近年のメルセデス共通のフロントフェイスは掛け値なしにクールで格好良い。
ベースのEクラスクーペがすこぶる流麗なデザインであることには間違いないが、このキャンバス地のソフトトップを纏ったカブリオレは一段とエレガントな優雅さを醸し出している。
カブリオレにありがちなルーフラインのゴワゴワ感がまったくないことも、このクルマの格好良さに一役買っているのかもしれない。そして輝くダイヤモンドホワイトのボディに真っ赤な本革の内装が、このクルマの非日常空間を際立たせていた。
座ってみると
瞬間に感じるいつものメルセデスの香り
ルーフをクローズした状態で乗り込んでみる。
やはり分厚いドア、アンコの詰まったざっくりとしたシート、そして座れば長い座面長が心地良くひざ裏を支えてくれる。
絶妙なセンターコンソールの高さと相まった安心感、そこにはカブリオレとは気付かせないいつものメルセデスが広がっていた。
ヘッドクリアランスも十分で、天井が窮屈な姿勢を強要することもない。
ふと後ろを振り返ると、思いのほか広い後席に少し驚く。
2ドアクーペでしかもカブリオレ、こんなに実用的でしっかりとした後席があるのだ。
このカブリオレで真っ赤なレザーシートが4座あるこの格別なラグジュアリー感こそが、歴代のセレブリティたちに愛されてきた理由の一つなのかもしれない。
そんな想像が容易いほど、このクルマは魅力的だった。
乗ってみると
まずはいつものごとく事前に提供された情報を整理してみよう。
・最高出力245kw、最大トルク480N.mの2ドアカブリオレ
・全長4,745mm、全幅1,785mm、全高1,395mm、車重1,880kg、駆動方式はFR
・キャンバス地のソフトトップは電動式で開閉まで約20秒、時速40km/hまでは走行中の開閉が可能
・フルLEDヘッドライトや先進の安全技術を盛り込んだレーダーセーフティパッケージを標準装備
すべての喧騒を忘れさせてくれるほどの極上の乗り心地
さあ、それでは乗ってみよう。
いつものごとく都心の渋滞を抜けて首都高環状線へ合流しよう。
この3.5リッターエンジンはツインターボの過給を受けて、なんとも5リッターNAエンジンのような重厚感を見せる。
低回転域のトルクの細さは微塵も感じられず、過給が始まる常用域でのターボラグもない。
そして驚いたのはそのボディ剛性だ。
よほど入念なレーザー溶接を施しているのだろうか。
カブリオレとは思えない塊感のあるボディ剛性にはこの時代の先進技術の一端を感じた。
またそれと同様に乗り心地が素晴らしい。
いまだかつてこれほどの上等の乗り心地はあったのだろうか。
大げさではない、本当の極上の乗り心地なのだ。
このEクラスがデビューして6年余り、すでに熟成の域に入っていることを鑑みてもなにぶん極上なのである。
首都高のピッチを柔らかく包み、まるでパスタのアルデンテのごとく程良く芯の通ったスペシャルな柔らかさに快感を覚えてしまったのだった。
翌日、曇り空の怪しい天気にも関わらず、この車の本領を発揮すべくフルオープンでのドライビングを楽しむことにした。
まずはクローズのまま、少し街中を走ってみよう。
少しばかり走っていると、後ろからけたたましい音とともに猛スピードのオートバイが追い抜いていった。
ものすごい騒音に、一瞬何が起こっているか混乱してしまったほどだ。
そうだ、このクルマはカブリオレなんだ。
ボディのきしみ音などの車内の雑音がまったく聞こえないゆえにこのクルマがカブリオレであることをすっかり忘れてしまっていた。
そして誰もいない信号待ちでお待たせのフルオープン。
その間、約20秒足らずでそのキャンバス地の屋根は完璧にボディへ収まっていった。
やはりオープンにしてもスタイリングは抜群だ。
極上の乗り心地も相変わらずで、風の巻き込みも最低限。
窓を全開にしても、50km/h位まではかえって心地良い。
60km/h位から少し巻き込みを感じるも、今度は窓を4枚すべて上げれば(閉めれば)頭上をわずかに風が通っていく。
スタイリングはもちろん、このわずかに通る風もまた心の底からこのクルマの「優雅さ」を味あわせてくれている。
まるで抗うことのすべてを忘れさせてくれるように。
クルマとしての終の棲家なのか?
人生を捧げて社会に何らかの足跡を残してきた本物エリートたる先達たち、
彼らがたどり着く終の棲家(クルマ)はきっとこういうクルマなのだろう。
時に自分自身の襟を正してくれて、時に自分自身に褒美を与えてくれる。
そしていつしか自分の人生の指針として司り、やがて自分自身の最高のレピュテーションを創り上げてくれる。
このクルマの美しさは、そういった稀代の本物のエリートたちの人生の美しさをも育んできたのだ。
彼らは決して人生の成功を目指してこなかった。
ただひたすら成長を追い求めてきた結果、手に入れたものが成功だっただけである。
しゃかりきに進化を追い求めるのではなく、徹底して人としてあるべき姿の原点に回帰していく快感を、また彼らは知っているのだ。
このクルマも同様だ。
メルセデスが人車一体となって育んできたこの伝統は、日々の先進技術と融合してもはや工業製品の範疇を超越している。
言わば芸術作品のレベルへ到達していると言っても過言ではない。
自分自身、これからのクルマ選びに大革命が起こる予感がする。
そんなパラダイムシフトをプレゼンしてくれたこのクルマに、
今夜も乾杯...
測ってみると