「サザンの新作は、黒澤の「赤ひげ」である」
興行成績を気にしないで作品を作り続けるのは、趣味、道楽ですよね。
一方、毎回確実に利益を出し、継続して作品を作り続けられることが出来るクリエイターは、驚くほど少ないです。
音楽関係でパッと思いつくのは、ストーンズですかね。
CDやDVDの売り上げ、コンサートの観客動員数、衰えません。
そこにもう一つ、現役感、現在進行形感を加味してフィルタリングしてみましょうか。
これがまた非常に悩ましいんです。
◯◯さんとか、△△さんとか、過去のヒット曲で「昔の名前で出ています」シリーズをやるアーチストは、誠に多いです。
需要と供給がマッチしているのですから、その世界もありなのですが、それは映画で言うとリバイバル上映に近い。
で、今回はサザン。サザン・オールスターズです。
3月31日に10年ぶりの新作、「葡萄」がリリースされました。
興行的にも評論家的にも大好評。
オリコン初登場1位。
ファンとしたら、願ったり叶ったりの展開です。それは煎じ詰めれと、桑田さんがガンで亡くならなかった。サバイブしてくれた。新作を出してくれた。ありがたい!に尽きます。
私なんか特に桑田さんの執刀医がその後手術を担当したのが勘三郎さんであったことに激しく反応してしまう。
勘三郎さん、ガンの手術は成功したけれど、肺炎で亡くなった。
生前、面識のない桑田さんは、ガンを公表した勘三郎さんに励ましの手紙を送ったそうです。
いい話でしょ。
で、新作。
とにかく、いい曲が16曲。すごいことにハズレなし。
現役バリバリの意気のいい新曲が並んだ奇跡。
今となっては年始の謝罪報道のマイナス感を含めていい感じ。
私が一番好きな曲は、「やなことばかりの世の中だけど」。
この曲が示す新たな希望の世界は、サザンの新境地ですらある。
成功したアーティストにとって、ニューアルバムは、ボクシングチャンピオンにとっての防衛戦。
今回は全盛期プラス新たな技術的な進歩を経て完全KO勝利した。って感じ。
そしてそれはCDか売れて、コンサートが満杯になってこその大衆音楽。
このアルバムを引っさげてのコンサート。
オープニングは、アルバムのオープニング曲である「アロエ」で決まりだろう。
実際に「アロエ」になるかどうかが大事なのではない。
そう思わせるアルバムの現役感がうれしい。
最大の賛辞として「赤ひげ」のようなアルバムといいたい。
成功したアーティストは、過去の自分の大成功した作品を越えられない呪縛に苦しむ。あるいは、実際越えられない。
チャンピオンベルトは、奪取より、防衛することが難しい。
桑田さんの今回の防衛は、この何年か散々やなことがあり、堪えた我々へのご褒美なんだなあ。
そう思わせてくれる、最近ちょっとお目にかかれない人情話の雰囲気を醸し出すアルバムです。