MercedesレポートVol.2
~あのメルセデスに乗ってみた~
メルセデス・ベンツCLS 63AMG S 4MATIC
どんなクルマ
極めて妖艶なラグジュアリー4ドアクーペ
想えばメルセデス・ベンツ CLSクラスがデビューした時、その斬新さと懐かしいエンスージアスティックな感覚が入り混じった妙な興奮を覚えたものだった。
Eクラスをベースに全長を70mm(AMGモデル比)延長したこの4ドアクーペは、E 63 AMG S 4MATICと同じAMG V型8気筒、5,461ccツインターボエンジンを積む。
昨今のエコの流れもあり、前モデルの6,208cc自然吸気エンジンに比して総排気量を800ccダウンサイズ、その代わりにこのV8エンジンの両バンクにそれぞれ小型の高性能ターボチャージャーを装着。
このカテゴリーで極めて妖艶なスタイルを持つCLS 63 AMG S 4MATICは、紛れもなく4ドアクーペにおける至高のハイエンドスポーツサルーンであることは間違いない。
眺めてみると
大胆な官能性としなやかな凛々しさの融合
スタイリングを見てみよう。
このCLS 63 AMG S 4MATICの特徴は、細部にわたるグラマラスな造形と全体像に観るしなやかな曲線の見事なコントラスト、まずはこの言葉に尽きるだろう。
威風堂々なラジエーターグリルや前後の力強いフェンダーライン、前後のドアを大胆に切り裂いた、エッジの効いたプレスライン、そしてそこにしなやかで流麗なルーフラインを纏っているのである。
この一見奇抜なコンビネーションが実はこのクルマの見事なまでのラグジュアリー感を演出しているのだ。
過去、多くのデザイナーがチャレンジしたCピラーから緩やかに垂れ下がっていく曲線デザイン。
誰もがモノにできなかったこのデザインコンセプトをメルセデスはいかにして完成させたのか?
デザイナーが来る日も来る日もモックアップを傍らに置き、ご飯を食べる時もお風呂に入る時もいつなんどきでもそのモックアップとにらめっこをしながら、時に優しく時に厳しく最高の愛情を注いで来た証なのだろう。
そんな想像ができるほど、この車のデザインは本当に美しいものだった。
座ってみると
あのメルセデスの感覚が蘇る
メルセデスにしては小さめなサイドウィンドウを傍目にそのドアを開けると、思いの他タイトで贅沢な空間が待ち受けていた。
仕立ての良いセミアニリンレザーがふんだんに奢られ、要所のカーボンパネルが只者でない雰囲気を醸し出す。
小さく太く下部が水平な楕円形のステリングや小ぶりでソリッドなAMG E-セレクトレバーがドライバーの高揚を誘(いざな)う。
ブレーキペダルを踏んでエンジンに火を入れる。
そしてシートを動かす。
シートベルトを締める。
すべてのスイッチに何とも言えない独特の重い感触が残る。
そう、これは昔懐かし初めて乗ったメルセデスの感触。
エアコンや種々のスイッチからアクセルペダルそしてシフトチェンジまで...
すべてに独特の重さのあった昔のメルセデス。
「最善か無か」、一時は過去の幻想と化していたあのメルセデスの感覚が確かにここに蘇ってきたようだった。
乗ってみると
これは贅を尽くしたラグジュアリークーペなのか、はたまた生粋のスポーツカーなのか
・最高出力430KW(585ps)、最大トルク800Nm(81.6kgm)の4ドアクーペ
・全長4,970mm、車重1,980kg、駆動方式は4WD
・前モデル(6,208cc自然吸気)から約800ccダウンサイジング(5,461cc過給器付)されたAMG新世代エンジン
・AMGの職人が1台1台丁寧に手組みした5,461cc V8ツインターボエンジンを搭載
荒ぶる鼓動を響かせる「The Engine’s Car」
火の入ったエンジンから耳に入るV8系爆裂サウンド。
それでも以前のAMGに比べてより細やかで耳触りの良いビートを刻んでいるようだ。
このサウンドは紛れもなく生粋のスポーツカーのそれである。
前車のS 65 AMGクーペのV12気筒エンジンとは明らかに異なり、エンジンそのものがしっかりと存在感を示している。
まあるで荒ぶる鼓動を響かせ解き放たれる瞬間を待ちわびているように。
ゆっくりとアクセルを開けてみると、外観の想像とは少々異なる低めのシートポジションから感じる乗り心地は、想像以上にハードに響きステアリングもしっとりと重い。
そしてすぐさま、低速域からまるで誰かに抱き上げられたかのような分厚いトルクを感じ始めるのだ。
小型のツインターボチャージャーのおかげかターボラグなどは微塵も感じない。
そのまま都心の渋滞をいなし、いざ首都高環状線へと進んでいく。
ETCレーンを通過、いざ本線へ合流。
なんとも逞しいサウンドとともにハンドリングは一気に軽快に変貌した。
低速域の分厚いトルクそのままに高回転までよどむことのないこのエンジンは、どの回転域からもリニアに反応、ここにもマイスターの秀逸さを感じずにはいられない。
そしてボディ剛性も完璧なのだ。
首都高を流すこのクルマはまるで4m少々のスポーツカーに乗っているかのように、ステアリングからサスペンション、そしてタイヤを通じてドライバーが路面と会話できる。
タイヤが路面に接地しては進んでいくそのインフォメーションが、ダイレクトにすべてドライバーに伝わって来るのだ。
そしていつもの如くそのエンジン音とスピード、回転数にシフトスケジュールが完璧にチューニングされている。
首都高環状線を降りる頃には、このクルマが4枚のドアを持ち全長も5m近くあるクルマであるということをすっかり忘れてしまったほど、そのAMGワールドを存分に堪能させてもらった。
この矛盾こそがクルマの理想形
そうこのクルマはまさしく4枚のドアを持ち、4名の乗車を苦もなくこなし、トランクにはゴルフバッグ3セットを飲み込む実用車なのである。
ファミリーカーとしても十分な資質を備えている。
一方、5,461cc V8ツインターボエンジンから生まれる430kw・800Nmという巨大なパワートレインを4輪で駆動し、リミッターが効く250km/hまで突き抜けていくモンスターマシンであることも、これまた事実なのである。
4ドアのモンスターマシン、これまでは需要への疑問と感覚的な違和感から今ひとつピンと来なかった。
しかしこのCLS 63 AMG S 4MATICに出逢えたことで、この難問への自分なりの一つの結論を見た気がする。
「この矛盾こそがクルマの理想形」
クルマに乗って約四半世紀、この1週間の試乗の中で得た体験は新しいクルマの価値観を創造するには十分な時間だった。
この素晴らしく心地良い矛盾を経験させてもらったCLS 63 AMG S 4MATICに今夜も乾杯...
測ってみると
- 全長×全幅×全高 4,970mm×1,880mm×1,430mm
- ホイールベース 2,875mm
- 車重 1,980kg
- 駆動方式 4輪駆動
- エンジン 5,461cc V型8気筒DOHCツインターボチャージャー付
- トランスミッション 電子制御 7速 A/T
- タイヤ F255/35R19、R285/30R19
- 燃費 8.5km/l(JC08モード走行)
- 価格 18,840,000円※メーカー希望小売価格(税込み)
- 試乗車の年式 2015年式
- 試乗開始時の走行距離 2,455km
- 走行距離 333.8km
- 消費ガソリン62.46l
- 試乗形態:市街地50%/高速50%
- 実燃費 5.34km/l(無鉛ハイオク)