MercedesレポートVol.1
~あのメルセデスに乗ってみた~
メルセデス・ベンツS 65 AMGクーペ
どんなクルマ
メルセデス史上最高のナイト(Knight/士爵)なクルマ
メルセデス・ベンツ S 65 AMGクーペはそんな形容詞がよく似合う。
Sクラスをベースにホイールベースを90mm(Sクラスショートモデル比)短縮したこの2ドアクーペは、6リッターV型12気筒ツインターボエンジンを積み630ps/102kgmを7速ATで操る。
このメルセデスシリーズ最高級グレードの高性能AMGモデルは、まさにラグジュアリークーペの王様である。
眺めてみると
デザインコントラストの魔法
まずはスタイリングを見てみよう。
このS 65 AMG クーペは片側47個のスワロフスキーを埋め込んだ華やかなヘッドライトと、ピラーレスのサイドウィンドウのしなやかなラインが醸し出す女性的美しさが特長だ。
またその反面、前輪タイヤハウス上部から流れる彫刻的プレスラインと20インチの巨大なホイールハウスからは逆に男らしい力強さも感じられる。
ロングノーズにショートデッキ、古典的なスポーツクーペの方程式からは想像できないメルセデスの魔法のデザインは、このコントラストによって独自の世界感を引き出しS 65 AMGクーペの魅力を一段と際立たせているのだ。
イタリアのクルマ達とは一味違うこの色気は、実車を見ればより鮮明に分かるだろう。
座ってみると
目に見えない本当のメルセデスクオリティ
ドアを開けるとまずはそのドアの大きさと厚みに驚く。
最大30cmはあろうかというこのドアの厚みが乗る者への安心感を与えてくれる。
そして室内は一般のクルマとは明らかに一線を画す妖艶な空間が拡がっている。
運転席から助手席、ドア、シートに至るまで一体化した近年のメルセデスのデザイン、このS 65 AMGクーペの室内は現状のメルセデスのデザインの集大成とも言えるのだろう。
細部に目を配ると、まず革張りの縫製の頑丈さと丁寧さからこのクルマの贅沢さが伺える。
そしてすべて液晶化されたメーターパネルと7色から選べる室内の間接照明が創り上げる非日常空間もその贅沢さを更に際立たせている。
また座ってみれば、そこには国産の最高級クラスのクルマのシートに比べても少しだけ長い座面長のシートが大きく貢献している。
その座面の先端は膝の裏をしっかりと心地良く支えてくれるのだ。
これによって長時間のアクセルとブレーキ操作の疲労を大幅に軽減し、ドライバーが安心して安全に運転できる配慮がなされているのだろう。
ナビの画面もビックリするほど大きい。
画面はざっと通常の2画面分、これには思わず初めて液晶大画面テレビを見た時の感動を思い出してしまったほどだ。
乗ってみると
注目のマジックボディコントロールとダイナミックカーブ機能
まず事前に提供された情報を整理してみよう
・2,170kgの重量ボディの2ドアクーペ
・AMGの職人が1台1台丁寧に手組みした6リッターV12ツインターボエンジン
・馬力630ps、トルク102kgmのモンスターマシン
・なぜかシリーズでこのクルマのみ後輪駆動
・注目の新機能は前方の路面状況を解析するステレオマルチパーパスカメラを駆使し、サスペンションのダンピングを調整、常に最適かつ快適な乗り心地を提供するマジックボディコントロールと、その機能を使ってカーブの曲線率を検知、油圧サスペンションをコンピュータ制御してロールのないコーナリングを演出するというダイナミックカーブ機能
この車は本当に後輪駆動なのか?
さあ、それでは乗ってみよう。
まずエンジンに火を入れるとそれは意外なほど少し静かな爆裂系サウンド。
かつてのAMGに比べると少し物足りないかなと思い、いざアクセルを踏んでみる。
なるほど、まったくと言っていいほどロードノイズを感じない静かな車内に最良のAMGサウンドが響き渡った。
これがベストなエンジン音のチューニングということなのか...
そしてそれを凌駕するほどの極上の乗り心地、まるで違う乗り物に乗っているかのごとく。
都内の街を少し流した後、首都高速環状線へ入り少しやんちゃにアクセルを踏んでみた。
それはまるでゲートから解き放たれたサラブレッドのごとく、スーッとどこまでも伸びていくかのよう。
先ほどまで静かで大人しげだったこの6リッターV12エンジンは大味感などまるでなく、その回転のなめらかさとレスポンスの速さは生粋のスポーツエンジンそのものだということを気づかせてくれた。
挙動を乱すなどというお行儀の悪いことは一切なく、ふとこれは本当に後輪駆動なのか、なぜ純粋なFRで630ps/102kgmをこんなにもしなやかに受け止められているのだろうか?という疑問が沸いてきた。
しばらくして首都高5号線に移ると、路面は雨で随分と濡れてきている状況になった。S65 AMGクーペはあいかわらず濡れた路面をものともせず、しっかりレーンをトレースしていく。
この感覚はすごい。
2,170kgものボディを完全に制御し、雨の中を四輪駆動のごとく一糸乱れぬ挙動で流れていくのだ。
昔の四輪駆動スポーツにはアンダーステアが付きものだった。
ことごとくその鼻の重さにスポーツ性能は影を潜めてしまうことも多かった。
そんな苦い思い出をかき消すかのごとく、このS 65 AMGクーペは鼻の重さを微塵も感じることなく気持ち良く首都高を闊歩している。
運転席からはそれぞれの4つのタイヤが今それぞれどの路面と接しているのかがしっかりと伝わって来る。
とにかく、こんな安心感のあるクルマを経験したことは一度もない。
しかも、この車のスゴさはこの安心感にとどまらないところにある。
そう、それはなんとも言えない極上の悦楽感。
確かにマジックボディコントロールもダイナミックカーブ機能も素晴らしい。
スタイリングも室内のクオリティもこれまた至極であることに疑う余地はない。
でもこのクルマの本当の素晴らしさはこの極上の悦楽感、やはりエンジンそのものなのである。
人間の五感を知り尽くしたAMGエンジニア
ドライバーがアクセルを踏む。
そしてスピードが上がっていく。
そのアクセルを踏んだ瞬間に、耳から聴こえるエンジン音、目から伝わる風景、そしてアクセルから感じる躍動感、ステアリングを通じた加速感、それらのすべてと自分の脳が感じるスピード感が完璧に一致しているのである。
減速時のブリッピングも、自分の脳に伝わる減速感とブリッピングで上がった回転数の感覚がまさにぴったり一致するのである。
AMGの匠のエンジニアは人間の五感を知り尽くしているのだろうか?
日本車を最高の家電製品とするならば、これはまさしく最高の工業製品なのだ。
3,120万円という価格(※メーカー希望小売価格 (税込み) )はそんなエンジニアたちの長年の経験と卓越した技術への対価なのかもしれない。
1週間という短い時間の中で、至福な時間を過ごさせてもらったこのS 65 AMGクーペに乾杯...
測ってみると
- 全長×全幅×全高 5,045mm×1,915mm×1,425mm
- ホイールベース 2,945mm
- 車重 2,170kg
- 駆動方式 後輪駆動
- エンジン 6.0リッターV型12気筒SOHCツインターボ
- トランスミッション 7段AT
- タイヤ F255/40ZR20、R285/35ZR20
- 燃費 7.9km/l(JC08モード走行)
- 価格 3,120万円(※メーカー希望小売価格 (税込み) )
- 試乗車の年式 2015年式
- 試乗開始時の走行距離 2,347km
- 走行距離 317.6km
- 消費ガソリン 62.3l
- 試乗形態:市街地50%/高速50%
- 実燃費 5.1km/l(無鉛ハイオク)
※メーカー希望小売価格(税込み)