金融を斬る!

*** ディスクレイマー(為念) ***

本メールは、経済、市場、その他の社会的事象に対して、執筆者自身の完全なる個人的見解・所感であり、

その属する会社・組織のいかなる意見・見解等を反映するものではありません。

また、当メールの目的は皆様への参考情報の提供であり、何らかの金融・証券取引の勧誘や申込みを行うものではありません。

当メールの情報の正確性や完全性は保証されていません。

 

 

昨年から勃発した、ウクライナ問題ですが、ここにきてようやく停戦合意となりました。しかし、この停戦合意が確実に施行され、その効力が続くか否かはまだまだ予断を許さない状況のようです。実際、停戦合意の発効とされた日本時間2月15日午前7時から二日も経たない日本時間2月16日の夕方には「親ロシア派が、ドネツク州のデバリツェボへの砲撃を再開した」というニュースが流れてきました。

 

この停戦合意を受けてというわけでもないですが、原油価格も下げ止まりからややリバウンド的な展開となっています。過去1年で見て、6/25の高値100.54ドルから、1/29の安値43.58ドルまで、57%も下落しましたので、さすがに「売り疲れ」と言ってもよいかもしれません。

加えて、今現在のエネルギー・運輸・生産活動において、原油を全く使わないということはできないわけですから、原油価格がゼロに収束していくということは、ありえないわけです。株式や債券で言うところのデフォルト(破綻)リスクは、ほとんど無いと言えましょう。

原油に限らず、コモディティは通常、誰かしらのユーザーが存在しており、それが「実物」であるが故に、本当に「無価値」となることは、ほとんど無いと考えられます。故に、ある種の「コスト・ライン」に到達すると、その価格以下に対しては、下方硬直性が強くなり、リバウンドしやすくなるのではないかと思われます。しかし、それ故に、通常の価格形成はこの「コスト・ライン」の上で行われ (「コスト・ライン」のレベル感についての考察は後述)、そしてその価格形成は、株式等の金融資産に比較して、上がる時も、下がる時も「オーバー・シュート」しやすい、所謂「バブル」「逆バブル」が発生し易いのではないかと思われます。

 

「バブル」が発生しやすい理由は、大きく2つあると考えます。

一つ目は「中間財」の存在です。

原油の用途は、例えば日本の場合、ざっくり40%が動力、40%が熱源、20%が原材料(化学繊維等)なのですが、仮に原油の先高感が強くなると、原油を元々仕入れている会社だけでなく、その原油を精製加工している会社においても、早めに在庫を積み上げようと行動するのが合理的です。「今のナフサは、原油が安い時に精製加工したものだからコストが安く、原油価格上昇に伴って連れ高で高く売れる、それはOK。しかし、そのナフサを出荷した後は、将来の高い原油を仕入れて加工しなければならない。では、原料となる原油も、製品であるナフサも、在庫として貯められるだけ早く貯めてしまうおう」このような企業行動が起こると思います。しかも原材料が原油の場合、この行動を取るのは日本企業だけではなく、当然世界各国の企業が対象となります。「情報量は距離の二乗に反比例する」という法則がありますが、同じ国内の同業の動向はある程度想定できても、遠く離れた異国の同業がどういう行動を取るかまで予測することは難しいでしょう。そうなると、疑心暗鬼的になり、他社に先んじて調達すべし、とばかりに、「溜め込み」を加速させることでしょう。この傾向は、情報収集力の低い新興国の方が、先進国よりも顕著になると思われ、また、新興国企業の方が、エネルギー転換効率や精製効率が低いため、より多くの原料とその加工品を必要とすることとなります。それぞれの生産工程における、それぞれの企業等が、お腹一杯に貪るわけですから、本来消費されている最終需要よりも遥かに大きな需要がその生産過程で発生し、結果アップサイドへのバブルを引き起こすこととなります。勿論、ここに更にこの動きを見越した、生産とは関係が無い投機家も入ってきますので、より勢いが増します。干した藁に、正にガソリンかけて、燃やすようなものです。短時間で非常に良く燃えが上がります。

当然、逆も起こります。原油の先安感が出てきた場合、各工程の参加者は足元のまだ価格が下がっていない原油の購入を抑え、「溜め込んでいた」手持ちの在庫をできる限り使おうとします。ヘビー級の在庫調整が発生するため、一番川上の原油に対しては、当初想定されていた需要の減少よりも遥かに大きい需要減に見舞われ、大きく価格が崩れることとなります。溜め込まれていた在庫が多いほど、そして実際の最終需要の減少が大きいほど、その価格低迷の期間も長くなるわけです。そして、この動きを見越した投機家のショートが入ることにより、値動きは更に荒くなることが予想されます。

今現在の状況は、パニック的な在庫調整が終了し、それを狙ったショート・ポジションのカバーも概ね終わったという段階なのかもしれません。ここからが正念場で、本当に今後しばらくの需要供給バランスが今まで(昨年夏まで)と異なるのであれば、価格低迷が続き、それを予測しての更なる在庫調整から更に価格に対する下方圧力が増すことでしょう。一方、本質的なバランスの変化が少ないのであれば、積み上がっていた「バブル」的な在庫を吐き出してしまった後は、安定的横ばいに推移することも考えられます。

 

バブル発生の二つ目の理由は、この「中間財」を構築している企業や個人・組織の「投資行動」です。

原油を消費されていく「物」の原料と捉えれば、この参加者は、原料から製品の生産工程に参加している作り手になります。一方、原油を金融商品と同じく「投資対象」と考えると、彼らの投資行動は必ずしもプロフェッショナルとは言えないことが多々あると思われます。

プロフェッショナルではない一般の投資家や消費者が価格形成に対する関与率が高くなると、不完全な情報に基づく投資行動が増え、また情報が不完全であることを十分に意識しないまま投資の意思決定を行う参加者が増えるため、アニマル・スピリットの色彩が濃くなり、「合理的」なプライシングからのかい離が大きくなる傾向があります。

一般的な金融商品と比較して、プロフェッショナルでない投資家が、自分が投資家であることを意識せずに、その価格形成に深く関わることが多い訳です。歴史を紐解いてみても、多くの「バブル」は最終局面で、多数の一般投資家がその市場に参入し、価格形成における「非合理性」を増大させ、その後、価格の持続が不可能となり「バブル崩壊」に至るという経路を描くことが多々見受けられます。当然ですが、「非合理的」な価格形成に参加する投資家の数が多いほど、トレンドに引っ張られてしまう(率直に言えば、「迎合的な」)投資家の数が多いほど、アニマル・スピリット色は濃くなり、発生するバブルの規模も、その後の崩壊の傷跡の深さも大きくなる傾向があります。

 

ちなみに、バブルの持続が不可能となるタイミングですが、客観的・実際的に、その渦中にいる時に判断するのは非常に難しいです。これは、グリーンスパン氏やバーナンキ氏が述べている通りです。ただし、概念的には考察することが可能です。そもそも、超過リターンの源泉は、参加している投資家間の情報の非対称性により発生すると考えられます。この非対称性とは、投資家によって持っている情報の質、量、及びその解釈に差があること、更には同じ情報であっても入手タイミングが異なるということです。

不完全な情報しか持ち合わせていない投資家が、より完全に近い情報を保有する投資家に対してキャッチ・アップしていく中で、つまり、投資家間の情報の非対称性が解消していく過程で、超過収益が実現化してくと考えられます。従って、逆に市場参加者が同質の情報を同時に入手できるような環境下においては、超過リターンの獲得は非常に難しいものになると考えられます。

市場参加者の多くが同質の情報を保有するに至った場合、そこに至る過程に使われた情報の「鮮度」が無くなった訳(相場用語で言う「織込み済み」ですから、その情報に基づく更なる価格変動は小さくなっていきます(ボラティリティの低下)。そして次の情報がインプットされることにより、その新しい情報に反応して価格形成が行われます。通常であれば、数多くの情報がオーバーラップする形で市場に流れ込んできますので、一つのテーマのみを市場が追い続けることも、多くの投資家が皆同じ情報を保有することも非常に稀と言えましょう。そもそもこれらの状況を理解すれば、常に変化し続ける情報と投資家心理に対するある種の「猜疑心」から、一方通行的な投資解釈・判断はしないはずです。しかし、バブル発生時にみられる、ある種の「陶酔」状況となると、「猜疑心」的投資判断は、強いトレンドを形成している非合理的「バブル」投資判断に押し流されてしまいます。当初は猜疑心から「逆張り」をしていた投資家も、「負けて」、トレンドに乗らざるを得なくなります。そして、その本来は非合理的な価格形成に対して、何らかの「合理的」と思われる解釈が生まれてきます(1980年代後半の日本のバブルにおける「トービンのq」:土地価格の異常な上昇を「合理的」に説明、米国バブル時代の「PSR」:利益の出ていないにも関わらず、極めて高い株価が付いていた新興企業のバリュエーションに対する「合理的」説明、リーマン・ショック時における「AAA」格付:本来の分散の意味とは異なる、見せかけの分散効果に対する「合理的」説明、そしてひょっとしたら、今は「QEと政策プット・オプション」かもしれません)。そして、この「合理的」解釈をほとんど投資家が有するに至った時に、その巨大なトレンドを形成した情報の寿命が尽きます。最終局面では、皆がほぼ同じポジショニングなので、ボラティリティの低下とともに、流動性(出来高)も低下します(今ある価格以上の上昇期待をする材料が枯渇し、更に買い上がる参加者がほとんどいなくなってしまう為)。ただし、「乗り遅れた」と思った最後の参加者がパニック的に買ってくることがあるため、最終局面での上昇は思った以上に大きいことがあります。そして、その「祭り」の次に来るのは何か?「合理的」と思われていた非合理的な価格形成の化けの皮を剥がす、新しい価値判断基準の情報です。当然当初は、ほとんどの人がこの新しい情報を得ているわけでも、解釈できているわけでもありません。ほんの少し前では、「異端」の考え方だったわけですから。最初は僅かな綻びとして、その後太い流れとなり、更には濁流となって。ダムの水漏れから決壊までの様子の如くです。人間の行動心理として、ダウンサイドに対する反応の方が、よりパニック化しやすいのは周知の通りです。投資家は出口(リスク・アセットの現金化)を求めて、出口に殺到します。本来売らなければならない、価格形成が間違えていたものは、皆が売り手となるために、買い手が存在せず、価格はフリー・フォールのように下落する傾向があります。その下落を受けて、急激に減っていく自らの資産に恐怖を感じ、人々はとりあえず値持ちの良いもの(本来は価値が継続可能であるもの)、売ることができるもの(つまりは買い手が存在している、本質的に価値のあるもの)を売却して、資産の減少を止めようと必死になります。このパニック売りが、本来はそれほど歪な価格形成がされていたわけではないアセット・クラスに対しても、売り手の殺到として大きな価格下落を生じさせるため、そこで新たならパニック売りが発生することとなります。相場格言にある「売りが売りを呼ぶ」状態です。合成の誤謬と言うべきか、個々の投資家レベルにおける危機発生時のリスク・マネジメントはある意味教科書通りなのですが、そのリスク回避行動が市場全体に及ぶ時、その行動は全体像としては、全く正しいものでは無くなってしまいます。

以前にも述べたことがあると思いますが、このフィードバック現象が、自然科学と社会科学の差であり、市場の「怖さ」でもあります。自然科学においては、ニュートン力学によってリンゴが木から落ちることを説明できる人が、地球上の全ての人になっても、やはり翌日、りんごは木からニュートン力学に従って落下します。しかし、市場においては、あるアセット・クラスが1か月後に上昇すると考える人がある一定以上になると、そのアセット・クラスは1か月後には上昇しなくなります。何故なら、今すぐに上昇してしまい、予想されていた1か月分の上昇分を即座に実現してしまうからです。これが、私が考える「著名なストラテジストやアナリストは存在する、予想の的中率が高いストラテジストやアナリストも存在するだろう。しかし、著名で予想の的中率が高いストラテジストやアナリストは存在し続けることが極めて困難である。」の論拠となります。ただし、ここでのストラテジストやアナリストは、一般的なセル・サイドの方々、その思考プロセスや投資判断を広く一般に開示している人々を指しています。従って、それらの意思決定プロセスやメカニズムを秘匿し続ける方々(典型例としては著名マクロ・ヘッジ・ファンドでしょうか。ファンドやファンドマネジャーの名前は知られても、どういう投資行動を取っているかは全くの非公開)であれば、超過収益を稼ぎ続ける可能性があります。もっとも、最近のITテクノロジーの発達は、この秘匿性の持続性を著しく阻害している(つまりは他の投資家が、秘匿の投資手法を理解する手段が非常に増えている)ように思われます。故に、従来高パフォーマンスを挙げてきた「著名」ヘッジ・ファンドも最近は、超過収益を得ることが難しくなってきたように思われます。

 

さて、原油に戻って、「コスト・ライン」のレベル感についても、考察しておきたいと思います。

昨年原油価格が下落し始めた時、原油価格は100ドル以上ないと厳しいとか、80ドルを割れると立ち行かなくなる、といった論調が散見されましたが、今のレベルは概ね50ドルです。当時の論調からすると、多くの産油国や産油関連企業は赤字垂れ流しということになっているのでしょうか?今は辛うじて耐えているものの、この水準が続くと、破綻は免れない状況なのでしょうか?いや、そもそもそんなに赤字状態なのであれば、作るのを止める、つまりは減産に入るのが普通の経済活動ではないのか?安値競争の先陣を切っているサウジアラビアだけは、それほど他の中東諸国よりも採算ラインが低いのだろうか?どうにも、この議論には違和感があったため、原油に関するデータをもう一度良く調べてみました(JOGMC、日本石油天然ガス・金属鉱物資源機構の提供するデータを中心に分析)。

調べてみたところ(既にご存知の方も多いと思いますが)、所謂「コスト・ライン」については、二つの意味、あるいは二つの価格が存在していることが分かりました。一つは、通常我々が何かを生産する時に考える「コスト」、つまり製造コストです。もう一つは、財政均衡価格と呼ばれるものです。

製造コスト、これが限界コストになるわけですが、これは更に二つに分けることができます。一つは、生産コスト、つまりは既存の油田のランニング・コストです。原油価格がこれを下回るようであれば、操業していても、本当に赤字を垂れ流すだけとなります。もう一つは、発見コストと呼ばれるもので、油田は、どの油田でも徐々に枯れていくもので、一つの油田からの産油量は時間とともに減少していきます。ちなみに、シェールの問題点は、環境問題とともに、この産油量の減衰率が従来の油田よりも遥かに高い、つまり直ぐに枯れてしまう点にあります。この枯れていくのを補う為には、次の油田や鉱区を発見・開発しなければならない訳で、それが発見コストとなります。原油生産に携わる企業などは、この生産コストと発見コストを賄うことができてはじめて、ビジネスとして成立することになりますので、これが限界コストと言えるわけです。

この原油生産の限界コスト、実はかなり安いです。手元に2007年までのデータ(JOGMEC作成)があるのですが、それによると、

地域                  発見コスト           生産コスト           総コスト

米国・陸上       13.39                    10.06                    23.45

米国・海上       49.54                    7.66                      57.2

米国全体           17.01                    9.47                      26.48

カナダ              12.2                      8.91                      21.11

欧州                  31.58                    8.71                      40.29

アフリカ           38.23                    7.73                      45.96

中東                  4.77                      10.08                    14.85

世界全体           16.61                    8.61                      25.22

となっています(単位は、ドル/バレル)。発見コストは、地域によってかなりバラツキが大きく、それが総コストの違いとなっています。

まあ、当たり前ですよね。生産そのものは、何処の国・地域であっても、機材はほぼ同じでしょうし、必要な人員の数にもそれ程大きな差は無いでしょうから、人件費もほぼ同じになる。一方、新しい油田の発見については、そもそも近辺にどの位新しい油田があるのか、またそれを開発する難易度がどの位違うのか(例えば、陸上と海上の差)によって、大きく異なります。驚愕は、中東の5ドル/バレル以下の発見コストです。

ちなみに、最も総コストが高い、つまり採算が悪いとされているのは、カナダなどで主流のオイルサンドです。総コストは80.25ドル/バレルとされているため、今の原油価格の水準では、完全にコスト割れです。

話題のシェール・オイルの「平均的」な総コストは、31.2ドル/バレルとされているため、今はまだ「平均的」には黒字の状態です。

中東については、上記数字もその低コストに驚愕ですが、サウジアラビアの陸上油田の総コストは、僅か4.5ドル/バレルとされています。原油価格40ドルでも全く問題無しの状況と言えましょう。

原油価格が40ドル台前半まで下落すると、中東、米国・陸上、オイルサンド以外のカナダ等は問題ないですが、それ以外の地域・国はちょっと厳しくなってきます。

では、話題のロシアですが、彼らの限界コストはどの位かというと・・・、これが実は非常に低いとのことです。ロシア最大の国営石油会社ロスネフチの総コストは、サウジアラビアと同様の4ドル/バレル台ということであり、大手石油会社のルクオイルの総コストも25ドル/バレルとのことです。

 

この様に、ランニング・コストである、生産・発見コストから考えれば、現在の原油価格のレベルは、多くの生産者にとって、現在の市場シェアや今後の市場支配力を失ってまで、減産に踏み切るメリットは無い水準と言えましょう。

原油価格の低下がよりインパクトを持つのは、その平均水準が100ドル超と言われる、もう一つのコスト・ライン、財政均衡価格の方になります。

原油の財政均衡価格とは、原油の輸出代金で国庫が潤い、国内への投資が十分に賄えるレベルと考えれば良いと思います。つまり原油価格がこれ以下となると、原油生産としては採算が取れているものの、原油からの収益によって、国内インフラを発展・整備するには不十分ということを意味します。まあ、簡単に言えば、原油価格がかつてのような高値を付けなかったら、ドバイ・タワーなどはできなかったということになりましょう。

原油以外の国内産業が脆弱なほど、この原油の財政均衡価格はシビアなインパクトを持つことになります

ちなみに、IMFの2014年のデータによると、この産油国における財政均衡価格は、高い順に(単位:ドル/バレル、概数)、リビア180、ベネズエラ160、イラン130、アルジェリア110、イラク110、ロシア105、サウジアラビア85、UAE 75、クウェート50となっております。

更にちなみに、2009年の頃のデータを見ると、ベネズエラとイラン80、ロシア90、サウジアラビア50、UAE 23ドル等と、軒並み「財政均衡」が上昇している様子が伺えます。

財政均衡価格105ドル/バレルとされるロシアですが、実際原油生産における税金はすこぶる高く、2014年6月のUrals blendが1バレル107.62ドルであった時、会社の取り分は何と僅か31.25ドル(ちなみに採算分岐点は25ドル)であったのに対して、石油産出税が23.87ドル、石油輸出税が52.50ドルと、なんと販売価格の71%が税金となります。企業の利益は、僅か6.25ドル/バレル(31.25-25.0)に過ぎませんでした。

原油価格が50ドル/バレルで推移した場合、石油産出税は14.18ドル、石油輸出税が14.50ドルと推計できるため、企業の取り分は21.32ドルとなると考えられます。この場合、企業収益は1バレルあたり3.68ドルの赤字となり、税収は62%減の28.68ドルに留まります。ただし、会社は赤字と言っても、取り分は26%減で済むわけで、会社にとって壊滅的とは言えない可能性があります。一方、税収は62%減ですから、こちらはクリティカルです。つまり、ロシアにおいては、今現在のレベルまでの原油価格の下落は、原油生産を行っている企業などに取っては苦しいものの、まだ耐えられるレベルである一方、原油輸出をあてにしている国レベルの財政にとってはかなり厳しいものとなっていると言えましょう。

米国が、国内のシェール・オイル産業に対するネガティブ・インパクトがそれなりにあるにもかかわらず、サウジアラビアと組んで、原油価格下落のシナリオを推し進める背景が、このあたりに垣間見えているように思えます。

 

そのような中、米国エネルギー情報局(EIA)が週次で発表する統計において、米国における原油の在庫が4億1790万バレルと、データ集計が始まった1982年8月以来の高水準であるという報道が、2月11日に流れました。これは2月6日までのデータだったのですが、翌週2月13日までのデータを見ると、在庫は更に積み上がり、4億2560万バレルと最高値を更新しております。原油以外も、ディーゼル燃料はやや在庫調整の気配となっていますが、ガソリンは、1990年の3月の最高値に迫る勢いで在庫が積み上がっています。

これらのデータを見る限りでは、原油の在庫調整が終了したとは、残念ながらまだ言えない状況のようです。

このデータを眺めていて、興味深かったのは、これら民間在庫のデータだけでなく、米国の原油の戦略備蓄(Strategic Petroleum Reserve, SPR)のデータが掲載されていたことです。以下のグラフを見て頂ければ分かるように、SPRは、1982年から1984年にかけて大きく積み上げられています。この当時の歴史を見ると、1981年にレーガン大統領就任があり、また翌1982年にはフォークランド紛争がありました。

また、2001年から2005年にかけて、再びSPRは大きく積み上げられていますが、この時はご存知の通り、2001年に9.11があり、2003年にはイラク戦争が勃発しています。この時は、80年代の積み上げ時と異なり、戦略備蓄の増加も、原油価格高騰の一要因となった可能性が見て取れます。足元は、原油価格の下落等には関係なく、SPRは同じ水準を維持しています。こちらも何やら「きな臭い」ストーリーの兆候かもしれないと考えるのは、少し小説的過ぎるでしょうか・・・

image001 20150312平塚さん

 

 

▲トップに戻る